はじめに日本の現状について

 これからのまちづくりは「環境を重視したまちづくり」が望まれる。これは現在、多くの自治体が掲げる標語である。日本国中おしなべて、と言ってもさしつかえないであろう。バブルの崩壊以来、わが国は経済的目標を失い、物から心の時代へ、豊かさを求めて、と「環境」がクローズアップされてきた。しかし、この10年間のバブルの破綻処理の政策や経済界の流れを見ていると、標語として終わっていく危機感を、私は抱いている。
 沖縄サミットで、IT革命や情報産業が新しいバブルのようにもてはやされ、ロボット産業を中小企業の活性化へ、と錬金術のような賭け声が聞こえてくることに、危機感を抱いているのは私ばかりではないはずである。
 バブルの崩壊は、産業構造や国際的な国の関係が、具体的に変化していることへの対応の遅れがすべての原因であると私は感じている。その具体的な変化にともなう法の整備や教育の改革を、新たな文化の創造と捉え、基礎をつくる作業が政治にできなかったということだ。私には、その反省が不十分なまま、経済を進ませようとしていると思われてならない。例えば私達のつくば市がかかえている、最大の政治的課題である常磐新線と沿線開発においてもいえる。鉄道は5年遅れたが、事業計画についてはバブル前の計画がどれほど見直されたか定かでなく、予算が増えただけであるといえなくもないように。

 私達は、私達のまちや政治に対して、気がねなく発言をしていくことができないのだろうか。これだけ経済が豊かになり、教育の高い人々がどうして成せないのだろうか。私は、政治に少しばかり携わりながら、このことを考えてきた。そしていえるのは、決してできないことではない。そのつもりさえあれば難しいことではないと。

環境都市、ドイツ・フライブルク

 私は、今年2月に環境都市ドイツのフライブルク市に視察に行ってきた。そこで見たのは、ある落ち着きであった。
 80年代にわが国では、ヨーロッパは衰退した、という声があったが、そうではなく方向を転換していたのだということに気がついた。その方向とは、私達が標語としている「環境」を現実的な政策として中心におくことにおいての転換であったと実感した。
そして、その転換は市民運動から始まったのである。

 ドイツの南の端に位置するフライブルク市は、環境都市として有名である。人口20万の中には1割強23000人をかかえるドイツで3番目に古いフライブルク大学があり、環境関係の本部や支部、そして研究機関がある。どことなくつくばに似ているような気もする。

運動の広がり

 1970年初め、建設予定だった原子力発電所に対しての抗議運動が起こり、結果、原発排除に成功した。これが発端となった環境に対する市民の意識の高まりが、現在の環境を優先に考える都市へとつながっている。この運動の広がりは日本の場合と少し違うように思われる。日本の場合は、原発排除が成功すれば、そこで運動は終わってしまうように感じる。替わりのエネルギー問題に関して市民運動を広げ、代替案を考え行動することがあるだろううか?ここが大きな違いといえるし、とても重要なことではないかと感じる。

エネルギーはどうするか

 エネルギーは、原子力に頼らなくても、太陽エネルギーや最終ごみから発生するメタンガスを利用した、効率の高い発電・給湯・暖房システムの開発に成功するなど、さまざまな省エネルギー政策により、ある程度のエネルギーは自前でまかなえることを実証している。まさしく自治である。自ら治めるエネルギー自立都市を目指しているわけである。

「基本的なエネルギー政策」

1.省エネルギー政策
 従来型エネルギーの節約であるが、広報だけの政策ではなく実行があっての政策である。ここがちがう。例えば省エネルギー電球を無料で配布したり、電気とガスの料金体制を見直して基本料金制度を廃止し、各家庭で節電あるいは節ガスした分それだけ料金が安くなるという対策。
 もう一つは、住宅計画において十分な断熱対策を考えていない住宅には建設許可を与えない方針。ここ10年(85年位から)で800万マルク(約5億6000万円)を費やし、ほとんどの公共施設の建物の壁に断熱効果を高めるための工事を行った。その結果、2600マルク(約18億2000万円)の燃料費を節約することができたという。

2.従来型エネルギーの新しい利用形態の開発
 フライブルグ市が出資するエネルギー会社が、1991年に2200マルク(約15億4千万円)を投じて建設したコジュネレーションシステム(1つのエネルギー源から、電気と熱など複数のエネルギーを取り出して利用するシステム)は大規模発電より発電・送電のロスが少ない。従来のエネルギー効率は35〜40%に対して70〜90%と究めて高い。それに腐敗ガスと天然ガスを併用できるのが特徴でドイツ最初の再利用の地域発電と給湯を兼ねた施設である。それに、生産過程で出る余熱を遠隔集中暖房システムによって、付近の住民に供給している工場等があるという。このような政策は、つくば市のごみ処理場を利用すれば可能と思われた。

3.再性可能なエネルギーの利用
 再性可能なエネルギーとは、太陽エネルギーをはじめ風力や水力、あるいは地熱エネルギーをいう。フライブルク市では、太陽エネルギーに意欲的に取り組んでいる。ドイツ国内はもちろんヨーロッパ全体のどの都市よりも先進的である。学術面でも、世界的に有名な太陽物理学研究所とソーラーエネルギー・システム研究所、さらに太陽エネルギーの国際的組織(ISES)の本部も置かれている。
 具体的な対策として、実にユニークな試みがおこなわれている。サッカー場の屋根にソーラーパネルを張り付けて発電している。そのパネル1枚ずつを希望者に株主として分譲し、電力売却の収入の一部を株主に配当として支払うという新しいシステムも取り入れている。これは、施設の建設費を捻出する方法として、まことに巧妙な方法であるばかりでなく、市民の太陽エネルギーへの関心を高める点でも大変意義深いものである。おまけに競技場の年間指定席券を配当の一部とする付加価値がつけられ、サッカーファンにも話題を集めたと聞いた。
 それから、資料でしか見ていないが、太陽を追って回転する18角形の住居もあるという。面白いものを考えるものだ、夢があっていいなと思えた。まちづくりには夢がないといけない。
 地熱エネルギーはというと、ごみの埋立地(市北西のアイヒェルベルク地区)で発生するメタンガスを大切なエネルギー源として利用している。ごみから発生させたメタンガスと天然ガスを使った広域コジュネレーション・システム。ここで発生する電力は410万KWでこの地区(人口約9000人)の需要電力のほぼ2倍(市の約5%)であり、また熱としてはこの地区の需要量の約80%を自前のメタンガスでまかなっている。このようなシステムを全市に拡張することによってごみ問題・環境問題の解消ばかりでなく、原発や電力会社に頼らない「エネルギー自治」の構想も夢ではないと考えている。

 この3つの政策は、1986年にフライブルク市議会が決定した「市エネルギー供給基本コンセプト」によるものである。これが政治の基本的な現われかたである。市民運動が政治を変え政策に繋げていく。もし今後つくば市が、口先だけではなく環境を最優先(3月議会答弁)に考えまちづくりをしていくのであればエネルギーに関しても既存のエネルギーに頼るのではなく「エネルギー自治」を目指すべきである。少なくともつくば市にまかされている公共施設は「エネルギー自治」であるべきである。常磐新線の沿線開発に関して県、公団の説明はエネルギーに関しなんら施策がなく、都市ガス、東京電力と述べるだけであった。

交通システム

 市内の自動車の排ガスをなくそうということから、総合交通システムの見直しに着手した。1984年には市内への自動車の乗り入れ制限に踏み切った。この不便さを補完するものとして、ハード面では公共交通(市電、市バス)網の拡充、ソフト面では安価(59マルク、約4,130)で便利な「地域環境定期券(レギオカルテ)」を考案し普及させた。

バスの燃料は、天然ガスを使用している。
 販売価格の59マルクは実費の約60%であり、残りの40%は州が負担している。また、企業でも社員がこの定期券を購入する場合補助をしている。学生は半額である。
 つくば市においてもバスの導入が求められ、実験的に行われてはいるが、計画性の甘さと既存の交通網との関係性や利害の調整が不備である。総合的な見直しの中からリスクを考え、既存の交通網(民間)との路線を見直し環境を重視した交通体系をつくるべきである。

 つくば市において気になるのが駐車場ビルである。今後この政策はどこかで転換を迫られるように思われる。フライブルク市では、近郊電車の市外の駅前には広い無料の駐車場が設けられており、市外から市内への通勤や買い物にはこの駐車場に車を置き、電車に乗り換えて市内へ通うのである。これをパークアンドライドシステムと呼んでいる。したがって、市の中心部では、車はほとんど見当たらず歩行者天国に近い。また、自転車の使用を奨励していて、専用道路を整備するとともに、各所に駐輪場が設けられている。これは以前の駐車場だったらしい。
 市内への車の乗り入れは、禁止ではなく制限である。非常用の車、早朝の物品搬入・搬出の車、バス、タクシーは規制されていない。一般の乗用車では、とても不便にできている。駐車場が少なくそのうえに駐車料金が高い。時速30Kmの制限。このようなところに自家用車で入って行くと周囲から汚染者だという視線にさらされ、肩身の狭い思いをするという。この政策が、当市に適用するかは別として、今後新しい都市をつくるつくば市としては、排ガスの対応や高齢化、住居への環境の配慮を考えると、参考にせずにはおれないと思われる。最近つくば市で自転車の貸出等と自転車利用を奨励しているが、これにても交通体系としての視線が欠落しているようでならない。つくば市はその地形からも、自転車を交通体系として組み込める都市であるのは明らかである。

ごみ行政

 環境庁はその白書で循環型の社会構造を強く打ち出している。つくば市でも本年「つくば市一般廃棄物(ごみ)処理基本計画改訂版」が出された。これにも『ごみ減量を進める循環型社会をめざして』と題がついている。21世紀の都市は、ごみとどうつきあうかが大きなテーマの一つといえる。本来その道筋は、すでにできてなければいけないはずだが、政治システムの遅れが大きな中間処理場(ごみ焼却場)の利権の絡んだ乱立となり循環はできないシステムになっているのが現実である。この現実をフライブルク市のごみ行政と対比すると、今後の進むべき方向が顕著に見えてくる。恥ずかしい話だが、私もこの視察を通して、ごみに問題についての政治の重要性を改めて感じた。
 フライブルク・ドイツのごみ行政と我が国との決定的な違いは、焼却と資源化である。捨てることと再生である。資源化し再生できれば良いにきまってる。それができない国とできる国の違いである。

1.ごみは資源、ごみゼロを目指す

 

まず、フライブルク市ではごみを燃やさない。資源化が可能なものは分別し、リサイクルへ、そして最終ごみは埋められエネルギー源として利用する。簡単なことだがこれを実行するということは、大変なことである。産業構造の転換を求めているに等しいからである。
 1991年にドイツでは容器包装法が公布され、その効果が今日にいたっている。この法律は一般ごみの約半数を占めている包装廃棄物の減量のために、その発生源である生産業者と流通業者に、生産から販売までの段階で発生する包装廃棄物の引き取りと再資源化、つまりリサイクルを義務付けたものである。これを受けて企業が共同で DSD( デュアル・システム・ドイチェランド)社を創設する。このシステムはDSDから市が委託され分別された資源を回収しDSDが引き取り、リサイクルするシステムである。このDSD導入により大幅なごみ減量につながった。この法律は98年に見直され、より厳しい数値目標が示された。一例を上げると、「2001年6月30日までに,全容器包装廃棄物の65重量%を再利用し,45重量%を物質利用(マテリアルリサイクリング)しなければならない。」とある、これは大変なことである。
 我が国でも本年4月より容器包装リサイクル法が施工されたわけだが、多くの自治体で足踏み状態である。つくば市では平成11年度に県に提出した分別収集計画では、平成12〜16年度までは、容器包装の分別ほ行わないとしてる。つまり「法律の枠組みによる引き取りは求めない」と厚生省に返答している。だからほとんどの市民は「容器包装リサイクル法」の実感がない。しかしこれは法律なのである。これに対してつくば市の市民アンケートは3/4が分別収集に賛成している。

2.フライブルク市のごみ予算は〇円

 包装廃棄物についてはDSDが担当する。産業廃棄物については産業界がリサイクルして残ったごみは有料で市の埋め立て場に。その他は市民が支払う。4人所帯で約16000円になる。これをどう感じるかが問題である。ごみはあくまで公共なものとして行政が支払う、という意見、個人が消費して出すごみは自らの責任として有料にする、という意見。これは、審議会等でよく別れる意見である。私は有料にすべきと思う。行政が支払ってもそれは私たちの収めた税金である。形を変えただけで有料であることには変わりない。それならば、直接目に見える形の方が、ごみを考えることや減量につながると感じる。問題なのはごみの減量なのである。現在つくば市の1人当たりの処理コストは12289円である。4人所帯で約5万円である。この中には施設建設費償還(ごみ処理場)コスト5560円が含まれている。

3.今後のごみ行政

 フライブルク市のごみ対策をいくつか紹介したが、優れているところを受け入れながら、つくば市ではごみ対策をどうしていくかを早急に実行に移すべきと思う。そこで、一つの提案がある。つくば市では、ごみ処理場建設にあたり常磐新線にともなう人口増を鑑み、大きすぎるごみ処理場を持っている。現在100tの余力がある。これを利用して他の自治体のごみを引き受けると、年間4億以上の収入が見込める。つくば市の焼却場はダイオキシン対策もクリアしてるので市民への理解も受けられると思われる。現に平成10年12月から11年の1月まで、竜ヶ崎市のごみを2131tを引き受けt21800で約4646万円の収入を得ている。この大きすぎる施設を利用し収入を特定予算として、ごみの減量対策と施設の熱を利用した福祉施設等に生かしたらどうだろう。

行政の役割

 環境保全局長のブェルナー氏(物理学者)から説明を受ける。
 フライブルクでは、環境専門の副市長制度をひいて、責任の所在を明解にしている。
それと同時にネットワーク的に政策に携わっている。例えば、フライブルク市の環境行政を担うのは、市の環境保全局の他、独立採算で運営されている廃棄物管理局、市の企業であるエネルギー・水道事業供給社、市の企業の交通・土木局のなかにある交通課、公園緑地課、都市計画局、建設局も関わっている。つまり責任を明解にしながらも縦割りではないということだ。
 市民サービスの違いはかたちになって現れている。つくば市の場合はごみ収集に関しては茎崎町とつくば市が行っていて、その先の処理については一部事務組合が行っている関係で市民サービスや責任の所在が曖昧なところがある。
 一例をあげればフライブルク市の広報予算は約3200万(95年)である。これも市民負担の中から予算立てしている。つくば市では、予算立てが難しい。ゴミカレンダーは市や町で広報紙は組合でとなっていて、どちらも広報費として予算立てされていない。組合では企画費の中で需要費として378万円(年2回の機関紙分)計上しているだけである。もちろん消防予算も一緒である。
 フライブルク市の一人当たりのごみ予算は、つくば市の予算より大幅に低いことは、ごみ予算のところで述べたが、市民への啓蒙としての広報費は約10倍になっている。お金の流れが全く違っている。この違いはシステムと取り組みの違いがそうさせているのは明白である。
 つくば市の行政はどうあるべきかは、「環境最優先」を政策の中心に置くことで具体的に変わると思える。そして、環境自治体としての国際評価基準のISO14001認証の取得(県内では総和町、古河市が取得)にあたり、自らの目標と責任を持つことが重要である。ローコスト、循環型の社会を目指し公共事業の見直しを図ることが重要である。
 公共事業についての提案としては、水環境に携わる下水道問題があげれる。公共下水道を拡張していく政策は、環境を大きく捕らえると莫大な予算と時間がかかり過ぎる。これを合併浄化槽を計画的に配置していくことで、コストと時間を大幅に縮小することができる。水質も科学的に立証済である。

まとめとして

 フライブルク市のベーメ市長が、鎌倉市で行った講演(1995年)で、このような発言をしている。「・・エネルギー政策を実施するうえで大切なことは、くり返しますが、環境に対する市民の意識を変革することです。そうすることにより新たな経済活動の形成、具体的な活動、環境破壊の防止に向けた行動が生まれてくるわけです。そして、市民の意識改革を促すことは自治体の任務なのです。しかし、場合によっては環境に対する市民の意識の方が高く、政治が後手にまわることもあります。そうした時には、市民の方が政治に圧力をかけ、政策のなかに具体的に取り入れるように働きかけていますが、だからといって市民のイニシアチブに任せておけばいいというわけではなく、こうした市民のニーズを吸い上げ、それを政策に反映し、財源を確保し、最良のコンセンサスを得るのが政治の役割だと考えています」

 フライブルク市とつくば市を比較しながら進めてきたが、まだ環境教育のことや自然保護等大切な問題がある。しかし、環境最優先というものを物事の中心に置けば、自ずから見えてくるものがある。それを市民がリードしていくやり方が大切である。ベーメ市長の発言にもあるように、私が学んだのはそのことに他ならないと思える。フライブルクの環境教育や自然保護も、多数の市民運動団体が市や州から依頼されたり、自主的に調査や講座を開いて活動している。環境教育のセンターとして有名な市内のエコステーションも市から依頼された環境自然保護連盟(BUND)が運営している。NPO(非営利団体) NGO(非政府団体)と市民運動の大切さははっきりとしている。それを社会や政治が受け入れて新たな方向に舵をとるときが来ている。そうすれば私達のまちや環境をどうするかという問題は私達の責任として考えて行かざるをえない。

 私達は小さな存在に絶望することではなく、傍観者から発言者に少しづつ変化していくべきである。希望はここに残されている。

(つくば市提言大賞応募原稿2000.10) 野口修




HOME